15-機械を使った霊界通信

一九八〇年代以降、臨死体験や前世療法とはまったく別の領域で、死後存続研究の新たな展開が起こった。これまでの霊媒による交信とはまったく別の、きわめて現代的な方法で、死者霊と交信するというものである。それが、電子機器による霊界との交信「インストゥルメンタル・トランスコミュニケーション(Instrumental Transcommunication=ITC)」である[クビス&メイシー、一九九九年]。
録音機に「見えない存在」の声が混入するというのは、以前から偶発的に起こっていた現象である。一九〇一年にはアメリカの民族学者ヴァルデマール・ボグラスが、ドラムを叩きながら祈るシャーマン(シベリアのチョウクチ族)を録音したところ、それに応える複数の霊の声がテープレコーダーに記録されたことを報告している。一九五二年にはヴァチカンの法王庁アカデミー学長ジェメリ神父と物理学者・哲学者でもあるエルネッティ神父が、グレゴリオ聖歌を録音中、ジェメリ神父の他界した父親からの音声を録音したという(法王ピオ十二世はこれを否定しなかったが、その三十年以上秘密にされた)。五六年にはカリフォルニアでスザレイとペイレスがテープに超常的な音声を録音することに成功、アメリカ心霊研究協会に発表した(五九年冬号)が反響はほとんどなかった。
ITCの始まりは、一九五九年、スウェーデンの映画プロデューサー、フリードリッヒ・ユルゲンソンが、鳥の鳴き声を録音しているテープに、他界した母親の声が録音されているのを気づいたことに端を発する。彼はその後研究を続け、数百という超常的な声を録音し、一九六四年に『宇宙からの声』『死者とのラジオコンタクト』という書籍をスウェーデン語で刊行した(なおユルゲンソンは時の法王パウロ六世と知己だったっため、ヴァチカンもこれに興味を持ち、研究を開始したという)。
一九六七年にユルゲンソンの本がドイツ語に翻訳刊行されると、それに触発されてラトヴィアの心理学者コンスタンティン・ラウディヴが研究を開始した。ラウディヴは、霊の声を録音することに成功し、さらに霊の側から、ホワイトノイズ(ザーッという雑音)を利用することで音声が発生(加工)しやすくなることを教授され、それによって七万五千以上の超常的音声録音に成功した。そして七一年にその成果が『ブレイクスルー――死者との電子工学的コミュニケーションの驚異的実験』として刊行されると、ヨーロッパに大きな反響が巻き起こり、追試する実験者が輩出、以後、こうした現象は「ラウディヴ・ヴォイス」と呼ばれるようになった。
こうした動きは少し遅れてアメリカに伝わり、資産家ジョージ・ミークと霊能者ウィリアム・オニールの共同実験によって霊界との通信実験が開始された。八二年には、一九六八年に他界したNASAの科学者ジョージ・ミュラーとの二十時間以上に及ぶ交信が発表され、アメリカでもITCは一部でブームとなった。
ここまでの研究は音声録音によるものだったが、一九八六年にはドイツの実験者クラウス・シュライバーが、音声による指示に従ってテレビをつけたところ、他界した愛娘の映像を受信、またルクセンブルグでトランスコミュニケーション研究所(CETL)を設立し多くの成果を得ていたマギー&ジュール・ハーシュ=フィッシュバッハ夫妻が、ビデオカメラで超常的映像を受信した。以後CETLを始めとするいくつかの研究所で、生前の人物を同定できる人物画像(キュリー夫人やアインシュタインの肖像などもある)や「あちらの世界の風景」が続々と受信されるようになっていった。さらにCETLではコンピュータに超常的な方法で文書が受信されるようにもなり、まとまったメッセージや情報が入手されるようになった。

これらは、映像のものを除けば、十九世紀に多発した霊媒による霊信と、基本的には同じものである。霊媒の喉や手を使う代わりに電子機器が操作され、メッセージや情報が伝えられるということになる。内容も、死亡した人間が霊界で生きていることを伝えるものや、霊界の生活の様子を報告するものなど、基本線は変わりない。
電子機器を使うメリットは、第一には、霊媒による交信では霊媒の意識的・無意識的歪曲があるのに対し、電子機器はそれが回避できるということがある。これはもちろん非常に意義深いことであるが、電子機器による情報伝達でも、雑音や歪み、また文章の不完全などが起こりやすいようで、そういう意味では完璧な霊媒の方が優れている場合もある。
第二は、画像が送られるということである。これは霊媒では不可能なもので、それまで「霊界」の風景写真というものはなかった。ただし霊界での現実は、この世の物質的現実とは異なるので、そこに映し出された画像がそのままあの世の現実かというと話は微妙になる。そもそも受け取るのはこの世の物質媒体であるから、この世の認知力を超えていると言われるあの世の素晴らしさを伝えるものとはなりにくい。実際、送られてきた画像は、平凡な海辺の風景やロッジのような建物など、あまりぱっとしたものではない。
第三は、霊媒という特殊能力に頼る必要がなくなり、霊界通信が万人に開かれる可能性が予測されるということである。ただし交信が成立するためには、やはりそれにふさわしい霊的エネルギー場が必要で、一人で行なう場合には当人の霊的素質が要求されるし、グループで行なう場合は否定的な考えを持っている人が混ざっておらずメンバーの意気が合っている必要があるなど、なかなか難しい条件があるようである(これは十九世紀の「テーブル交霊会」と同様である)。
ITCによって送られてきた霊界に関する情報は、スピリチュアリズムの霊界情報とほぼ同じである。特にマイヤーズ通信については名前を挙げて言及され、類魂の原理や霊界の階層構造などは、「その通りである」という追認がされている。
なお、CETLの情報によれば、ITCによる情報は、死後の人間が赴く世界である第三界に存在する「タイムストリーム」というITC専門研究所から送られているとされており、そこにはエジソン、キュリー夫人、フォン・ブラウン、アインシュタイン、コンラート・ローレンツ、コナン・ドイル、ジュール・ヴェルヌ、そしてITCの先駆者ユルゲンソン、ラウディヴらが、いかにして地球と連絡を取るか、努力を続けているという。これはあくまでCETLによる情報で、他のソースでは確認されていないので、どう受け取るかは自由である。

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